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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)10376号 判決

主文

一、本件訴えを却下する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、請求の趣旨

1. 大阪地方裁判所平成三年(ケ)第二五九号競売事件の配当について同裁判所が作成した配当表の債権者大阪国税局の項に欄外に「被告管財人交付」とあるのを、「原告(大阪国税局長)に交付する。」と変更する。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 基本的事実関係

(一)  原告の参加差押えと競売続行決定

(1) 原告(所轄行政庁大阪国税局長)は、平成三年三月二九日、訴外株式会社近畿医学予備校(以下「滞納者」という。)から租税債権を徴収するため、滞納者所有の別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)に対する参加差押えを行い、大阪法務局東住吉出張所平成三年四月一日受付第二五号をもってその旨の差押登記を経由した。

同日現在、原告の滞納者に対する租税債権の内容、額は、別紙租税債権目録(一)に記載したとおりである。

(2) 訴外三井不動産ローン保証株式会社は、平成三年四月四日、滞納者の訴外協栄生命保険株式会社に対する債務についての代位弁済を原因として平成元年八月一一日受付の抵当権を譲り受け、大阪法務局東住吉出張所受付第五三〇号で抵当権移転登記を経由した。

そして、その後、右抵当権に基づいて担保権の実行としての競売を申し立て(大阪地方裁判所平成三年(ケ)第二五九号競売事件、以下「本件競売事件」という。)、平成三年四月一五日には、本件不動産について競売開始決定がされ、同月一八日にその旨の差押登記がされている。

(3) 原告は、その後、新たに発生した別紙租税債権目録(二)の租税債権を徴収するため、本件不動産に対する参加差押えを行い、大阪法務局東住吉出張所平成三年五月一三日受付第一〇八六号をもってその旨の差押登記を経由した。

(4) 本件競売事件は、同年六月三日、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律(以下「滞調法」という。)の規定により続行決定がされ、競売手続が続行された。

(二)  滞納者の破産

大阪地方裁判所は、同年八月七日午前一〇時、滞納者に対して破産宣告を行い、破産管財人に被告を選任した。

(三)  本件配当表の作成

(1) 原告は、平成三年五月二〇日、国税徴収法八二条にもとづいて交付要求を行い、同月二一日、右交付要求書が受理された。

(2) そして、大阪地方裁判所は、本件競売事件の配当期日(平成四年一一月七日)において、別紙のとおりの配当表(以下「本件配当表」という。)を作成した。

(3) 本件配当表によると、原告への配当等の額は一五五七万四八五八円(以下「本件配当金」という。)とされているが、その欄外をみると、本件配当金を破産管財人である被告に交付する旨が記載されている。

(四)  配当異議の申出

(1) しかし、本件配当金の交付を被告に対して行う理由はない。その詳細は、請求原因2(二)で述べるとおりである。

(2) よって、原告は、右配当期日において、欄外の記載に異議がある旨を述べ、配当異議を申し出た。

(五)  まとめ

よって、原告は、本件配当表の欄外の記載を抹消し、欄外に、配当金等を原告(大阪国税局長)に交付する旨記載するように求める。

2. 原告の法律上の主張

(一)  配当異議の訴えの適法性

(1) 配当表の作成にあたっては、実体法上の優先関係にもとづいてその順位、配当金額等が決定され(民事執行法八五条五項)、配当金の交付もこの配当表にもとづいて行われる(同法八四条一項)。

しかるに、本件配当表では、配当表欄外に「管財人交付」と記載されているため、原告は、配当表上、配当金を受けるべき債権者であるとされながら、実際には、配当金を交付されず、配当金は被告に交付されることになる。

(2) ところで、現実の破産財団が財団債権の弁済に不足する場合、原告の租税債権は破産管財人報酬等の費用に遅れて弁済されることとされているので、本件配当金が原告に交付されるか、被告に交付されるかという問題は、原告としても、極めて切実な利害関係がある問題である。

言い換えると、本件配当表欄外の「管財人交付」の記載にもとづいて本件配当金が被告に交付されると、実質上、「被告に一五五七万四八五八円、原告に対し〇円」との配当表の記載があったのと同じことになってしまうことになるのであって、このような取扱いは、原告の債権を満足させないで、原告の実体法上の権利を否定することになる。

(3) よって、本件配当表のように、配当金の交付先を債権者以外のものとする旨の記載を行った場合には、債権者たる原告において、配当表記載の配当額に不服がある場合に等しいといえるから、本件訴えは適法である。

なお、執行裁判所は、破産財団の弁済資力の程度等の破産手続状況について関知するところではないから、執行裁判所が、配当金等を、原告と管財人のいずれに交付するかを決めているという取扱いも妥当なものとはいえない。

(二)  原告に配当金を交付すべき理由

本件配当金は原告に交付されるべきであって、被告に交付されるべきではない。その理由は、次に述べるとおりである。

(1) 序論

交付要求(国税徴収法八二条一項)は民事執行法上配当要求と同様に扱うべきものであり、その配当は民事執行法八四条一項によって実体法上の優先関係にもとづき作成された配当表の記載によって実施される。本件配当表のように、配当表に記載された債権者以外の者に配当金を交付するという記載は、配当に参加する権利と配当金の交付を受ける権利を分けて取り扱うことに他ならないが、このような特異な取扱いをするには、法規上に明文の根拠があるか、そのような取扱いをすることに合理的理由があることが必要であるが、以下に述べるようにそのような事情はみあたらない。

(2) 別除権行使としての競売手続と租税債権の関係

別除権は、破産宣告前より破産者の特定財産の上に存する担保権の効力にもとづくものであって、破産法によって創設された権利ではない。別除権の行使も、破産手続としてでなく、民事執行法第三章に規定する担保権の実行としての競売手続によって行われるのである。しかも、この場合であっても、租税債権は、別除権行使における対象財産について滞納処分としての交付要求ができることはもちろんであって(そうでないと、租税債権に劣後していた担保権が、破産を契機に租税債権に優先することになるという極めて不合理な結果が生じる。)、そうであるからこそ、民事執行の実務上も、別除権行使にかかる競売事件に対して交付要求をすることを認めているのである。

このようなことからすると、別除権行使にかかる競売手続について行われる交付要求はいわゆる滞納処分としての交付要求に他ならず、その租税債権者の地位は右競売事件において当然に守られるべきものであるし、配当手続上もその地位に適合するような取扱いがなされなければならない。

(3) 破産法七一条一項と参加差押えについて

破産法七一条一項は、破産宣告前から破産財団に属する財産に対して滞納処分が着手されている場合にはその続行を妨げられることがない旨を規定しており、破産宣告前に着手された滞納処分にかかる租税債権は、破産手続によらずしてその固有の実行方法をなしうることが明らかである(この点で、別除権とほぼ同様の取扱いをうけることが予定されている。)。

そして、本件参加差押えが、右滞納処分という中に含まれるということも、国税徴収法の法文上からして明らかである。たしかに、参加差押えは交付要求の一方法ではあるけれども、それは、先行する差押えが解除された場合に差押えの効力を生じさせるものであるから(国税徴収法八七条一項)、潜在的に換価権を把握しているものといえるし、しかも、既に先行の滞納処分による差押えが存する場合には滞納者の財産について重ねて差押えをすることができないとされているところから、かかる場合にも参加差押えを行うことが認められている(国税徴収法八六条一項)。

このようなことからすると、差押えと参加差押えをことさら峻別して取扱いを異にすることに合理的な理由はない。

(4) 破産管財人に交付することの不当性

〈1〉 本件配当金が被告に交付された場合、原告に本件配当金額全額の弁済を受けられない事態が生じうることは前に指摘したとおりであり、かかる結果は、原告が破産管財人の報酬の一部をも負担したことに等しいものである。しかしながら、破産管財人の報酬等の優先性は、破産手続において認められているにすぎないのであって、破産手続外の手続であるところの別除権行使における競売事件手続においてその優先性が認められるわけではないから、右の結果は不当である。

〈2〉 しかも、本件配当金は、別除権が把握していた価値の一部にすぎないものである。言い換えると、たまたま、租税債権と私債権の間の実体的な優先関係により、別除権者の受けるべき配当金から控除されたものにすぎないのであって、本来、破産財団の管理部分に服することのない部分である。

すなわち、本件不動産の価額は五億一三二四万円であったところ、別除権たる訴外三井不動産ローン保証株式会社、住友銀行ほかの各権利者及び租税債権額の合計は一六億四四八八万九二五六円となっていて、換価しても余剰がでる場合ではないことが明らかであったから、破産管財人としては、本件不動産を換価することもできなかったのである(破産管財人のする換価は、別除権者に弁済してもなお余剰を生ずる見込みがある場合に限られると解される。)。このことからみても、本件配当金については、破産財団が実質的に掌握している価値以外のものであり、本来的には破産管財人が破産財団として取り込めないものであることが明らかである。

本件配当金を破産管財人に交付する理由はない。

〈3〉 破産管財人が、本件配当金を受領したとしても、それは財団債権者である国に弁済すべき性質のものである。租税債権者たる原告は、もともと、破産手続外でも弁済を受けることができるのであるから、破産管財人の手を経ることは迂遠な方法であるし、その必要はない。国において執行裁判所から直接受領することが合理的である。

〈4〉 被告は、国税徴収法八二条一項にもとづく交付要求にとどまる租税債権者に対しては、現実に配当金を交付せず、配当表に交付対象者として記載された破産管財人に対して現実に配当額を交付するのが民事執行実務の取扱いであるとも主張している。

しかし、被告の主張とは異なり、実務上の実際の取扱いは分かれているうえに、実務上も、交付要求権者に交付するという取り扱いの方が優勢である。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1のうち、(一)ないし(三)の事実、(四)のうち(2)の事実は認めるが、その余の主張については争う。

2. 請求原因2は争う。被告の主張は次のとおりである。

(一)  配当異議の訴えの適法性

配当異議の申出及び訴えの適法性について異議はない。

なお、平成五年九月八日現在で、破産財団の総額は九二七万九七七三円、財団債権の総額は金七八三〇万四七五五円であるところ、被告が本件配当金の交付を受けたときは、大阪地方裁判所破産部の許可を得て、財団債権の弁済を行う予定である。

(二)  原告の主張に対する反論

(1) 原告は、民事執行法八四条一項を根拠として、交付要求権者である原告に配当金を交付すべきであるとするが失当である。右条項は、配当表にもとづいて配当を実施しなければならないと定めているだけであり、合理的理由があって、配当表に記載された債権者以外の者に現実に配当金を交付すべき者があるという場合には、その者をも配当表に記載し、その者に対して配当金を交付することを禁じてはない。

原告は、国税徴収法八二条一項にもとづく交付要求の意義についても主張するが、右交付要求は、自ら強制的に租税債権の満足を実現させるものではなく、他の強制換価手続に参加する手続にすぎないから、交付要求の時期が破産宣告の前であるか後であるかを問わず、破産宣告後は、徴税権者として、破産管財人の手による随時弁済によるほかないのである。民事執行実務も、かかる理由から、国税徴収法八二条一項にもとづく交付要求にとどまる租税債権者に対し、配当金を直接交付せず、破産管財人に対してこれを交付していると考えられるし、それが民事執行実務における取扱いの大勢でもある。

(2) 原告は、破産法七一条一項で規定されている「滞納処分」に「参加差押え」も含まれると主張するが、右主張も失当である。

国税徴収法で、参加差押えは、同法第五章の滞納処分の箇所に規定されているが、前述した国税徴収法八二条一項による交付要求も同じ章に規定されているので、原告の主張に従うならば、破産宣告前になされた国税徴収法八二条による交付要求についても優先性が保証されると言わなければならない。しかし、同条による交付要求は他の強制換価手続に参加する手続にすぎないから、右交付要求にかかる優先的効力を認めるべき理由はないし、そのような解釈は前述した民事執行実務の取扱いの大勢にも反している。

(3) 破産法七一条一項の「滞納処分」に「参加差押え」が含まれるかどうかの問題について、実質的にみても、以下のとおりの理由で、限定的に解すべきと考える。

〈1〉 破産法上、財団債権が破産債権に優先し、破産手続によらずに破産財団から弁済されるという取扱いが認められる理由は、財団債権が総破産債権者にとって共益的費用としての性質を有するためである。しかし、租税債権に関して、かかる性格は極めて希薄であって、立法論としては疑問がある。実際の破産実務上も、延滞税、利子税等を加算した多額の税金によって破産財団の大半が先取りされてしまうというのが実情であって、このような結果の不当性は、解釈上も、できる限り回避されるべきである。

〈2〉 このような基本的観点に立ったうえで、本件事案に限定して、破産法七一条一項の「滞納処分」とは何かという問題を検討すると、本件のように滞調法の適用を受ける事案の場合には、租税徴収権者たる大阪府(大阪府西成府税事務所)による差押えが右滞納処分に該当し、原告による参加差押えは右滞納処分に該当しないと解すべきである。その理由は次のとおりである。

ア 参加差押えはいわゆる差押えとは異なり、参加差押書による交付要求にすぎず、その本質は他の強制手続に参加する手続である。よって、本件の場合のように、先行する差押えが取り消されたり解除されることがないままに配当表に記載された場合には、交付要求を行った租税債権者に対するのと同様、原告に対しては実際に配当額を交付しないで、被告に配当額を交付するのが相当である。

イ 滞調法一〇条三項によれば、滞納処分による差押えにかかる国税は、続行決定がされた場合には、執行官に対して交付要求しなければならないとされ、この場合の交付要求に関しては、租税債権者間の優劣に関する差押先着手主義が働くものとされている(滞調法一〇条四項)。しかし、右交付要求というのは、滞納処分としての差押えに続く強制換価をしないかわりになされるものであって、滞納処分の続行手続とも評価されるものである。

しかし、本件の原告は、単に参加差押えを行っているにとどまり、滞納処分の続行手続と評価できる部分はないから、右の例と同一ではない。

ウ 滞納処分による差押えは、担保としての性格を有し(国税通則法四六条六項)、他の租税債権者との間において差押先着手主義による優先関係も確保されているが(国税徴収法一二条、地方税法一四条の六)、強制執行続行決定があった場合に、この優先関係は滞調法一〇条三項にもとづいて交付要求をしたかぎりにおいて維持されることになっていて、参加差押えについてそのような配慮はなされていない。

そうだとすると、単なる参加差押えにとどまる租税債権者について、右租税債権の優先的地位が維持されるべきであるとはいえないし、これを維持すべきであるという理由も見いだしがたい。

(三)  破産管財人への交付が不当でないことについて

(1) 原告は、被告に本件配当金が交付されると、他の財団債権との平等弁済となって弁済が受けられなくなることがあり、本件配当金に関する国税の優先権が阻害されるおそれがあると主張する。

しかし、本来財団債権となすべきでない性質の国税債権が、破産管財人から、財団債権として弁済を受けられるということ自体において(それが平等弁済に止まる場合であったとしても)、その公益性は十分満足させられているものである。

(2) また、原告は、本件不動産の価額から破産財団に組み入れるべき原資(換価代金の残余)は当初から見込まれていないので、本件配当金を被告に交付する合理的理由は全くないとも主張している。

しかし、被告としては、本件配当表記載2の一四万一二〇六円(なお、これについては配当異議は出されず、被告において受領済みである。)と同表記載3の本件配当金については、財団債権支払いの原資として当初から見込んでいたものである(正確には、別除権に優先する順位に応じた参加差押にかかる公債権グループに対する配当分については、金額自体は予測時点では不明であるが、財団債権支払いの原資になることを見込んでいた。)。原告もまた、当初から、被告破産管財人に本件配当金がまず交付され、その後、被告から弁済がなされることを見込むべきであった。

第三、証拠〈略〉

〈省略〉

理由

一、本件訴訟の適法性について

1. 請求原因1のうち、(一)ないし(三)の事実及び(四)の(2)の事実は当事者間に争いがない。

本件は、原告が、本件配当表の欄外に、原告に対する配当金等を「被告管財人に交付」とする旨の記載がされたことについて異議を申し出て、本件訴訟を提起したという事案であるが、右争いのない事実及び弁論の全趣旨からも明らかなように、本件配当に関して、原告に対し、本税及び加算・延滞税として一五五七万四八五八円の配当がされること自体について、当事者間に争いがあるというものではない。

本件で、当事者が争っている問題点は、原告に対する右配当金が、執行裁判所から直接原告に交付されるべきであるか、あるいは、一旦、破産管財人である被告に交付され、破産管財人から原告に交付されるべきであるのかという点である。

当裁判所も、民事執行の実務上、右の点に関する取扱いが分れていることは承知しているし、また、配当金が原告に交付された場合と被告に交付された場合とで原告に交付される実際額に違いが出てくるという点も、そのような違いが生ずる可能性があるという意味では原告が指摘しているとおりであって、本件で当事者が争点としている問題は、当事者双方の利害に大きな影響があるということも否定しえないところである。

2. しかし、右の点が重要な問題であるということと、それがどのような手続によって解決されるべきであるかということは、自ずから別の問題である。配当異議の制度は、配当表に記載された「各債権者の債権又は配当の額について不服のある」債権者又は債務者が、その配当期日に異議を申し出て、その後、異議を述べた者とその相手方との間の訴訟という形で、異議の当否について確定させるというものであるが(民事執行法八九条、九〇条)、原告は、配当表に記載されていた原告への配当額について異議を申し出ているわけではないから、形式的には、右の要件を満たしていないことが明らかであり、本件配当異議訴訟は、いわゆる配当異議訴訟とは異なるものと言わねばならない。

3. この点について、原告は、本件配当表の欄外に「管財人交付」との記載がされ、本件配当金が被告に交付される結果、原告はその全額の交付が得られないおそれがあると指摘したうえ、実質的にみれば、配当表に「被告に一五五七万四八五八円、原告に対し〇円」と記載されたことに等しいから、本件配当異議の訴えも適法であると主張する。そして、当裁判所も、被告に本件配当金が交付されることにより、原告がその全額を受け取れなくなる可能性があることを否定するものではない。

しかしながら、そのような結果が生ずることになる原因は、執行裁判所が、本件配当金を債権者である原告に交付せず、債権者以外の被告に交付するところにあって、執行裁判所が本件配当表の欄外に「管財人に交付」と記載したとか、あるいは、その記載について異議申出がなかったからというところにあるわけではない。そもそも、配当表記載の配当金を実際に誰に交付するかという問題(配当表にもとづく配当の実施)は、執行裁判所の執行処分であって、各債権者が協議して確定しうる問題ではないし、法形式上からみても、配当表の記載事項は民事執行法八五条四項によって規定されており、誰に交付するかはその記載事項に当たらないことが明らかである。したがって、配当表の欄外に記載された「管財人に交付」という記載は、執行裁判所のメモ的記載であると解するのが相当である。もし、そうでないとすれば、執行裁判所は、配当表作成の際に、債権者と配当金の交付を受ける者とが違っていた場合には、配当表に必ずその旨を記載して、各債権者及び債務者から異議の申し出を受けることとし、反対に、それ以外の方法による異議申出を受けつけないこととなるけれども、現在の民事執行実務がそこまで徹底した取扱いを実施しているともみられない。

4. そうすると、前記原告の不服の内容は、一見、実体的な異議事由を述べているように見えるが、実は、執行裁判所が、メモ的記載を行って、将来本件配当金を被告に交付する旨宣言したこと(配当実施命令)に対する不服を述べているにすぎず、内容的には、手続上の不服を言っていることに他ならない。ちなみに、右のような手続上の不服については、執行異議の申立てをすることによってその救済を求めることができるし(民事執行法一一条)、また、もし、本件で原告が懸念しているような事態が生じた場合には、配当金を交付された者に対して不当利得返還請求を行うなど、別途の方策により解決すべきものである。

5. 以上の次第で、原告主張の異議内容は、民事執行法八九条一項にいう「配当表に記載された債権又は配当の額についての不服」に該当するとはいえず、したがって、本件配当異議の訴えは不適法であるというほかない。

二、結論

よって、本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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